日常ちょっといい話。

それはまず朝のこと。
先週末にあった研修の荷物の後かたづけを藤生が隅っこでやっていると、O君がさかんに「困ったなーどうしよう」と言いながら前にしゃがみこんだ。
「どーしたの？」
「別館のY代理っているじゃないですかー」
「ああ、よく電話かけてくる人」
「あの人からFAXきたんですけどー、僕、それ間違ってシュレッダーしちゃったんです」
「……シュレッダーしちゃいけない書類だったの？」
「まだ読んでなかったんです」
「………………」
朝からいい味を出しているO君である。
「電話して送り直してもらおうかなぁ。でも怒られるよなぁ。あああああああ」
「でも謝るしかないでしょう。で、送付用紙に山羊の絵をかいて、『さっきの手紙のご用事なあに？』って書いておけばばっちり」
「怒られますよう！絶対！！」
「でもあの人の電話っていつも仕事依頼じゃん。どーせそのFAXもその手のだからそんなに怒らないで送ってくれるよ」
そして電話したO君が怒られたどーかは藤生の知ったことではないが、それを踏まえて、時刻は夕方4時前後迄下ったころのことである。

「あ゛ーーーーーっっ！！！！！！しもたーーーー！！！」
神戸出身のO君の関西弁が月曜日から疲れ果てた部署に響き渡った。
振り向けばシュレッダー前にO君の背中が。
……君、またやったのか。今度は何の書類かい。
課員一同、なまあたたかーい視線を彼の背に。
がっくりと打ちひしがれたO君は、おもむろに襟の後に手をかけ、ネクタイをむしり取った。そして振り返り、途方に暮れた顔で
「やってしまいました……」
と呟く右手には、先端にシャギーの入ったネクタイが。
「うわははははははははははははははは！！！！！」
次の瞬間、一同爆笑。
ちなみに問題のネクタイは、ソード型をしている切っ先部分がほぼ全部シュレッダーに喰われていた。
その日、過労で倒れた人間がいたり、過労で死にそうだけど今日までにあげないといけなくて熱をおしてきている人間が来ていたり、支店のオヤジとバトった人間がいたりで、なかなかステキに荒んでいたうちの課員は何かに憑かれたようにしばし大笑いしていた。
普通会社というものは、多少の笑い声はあがっても、あまり馬鹿笑いというのは聞かない場所である。なのにあんまり大笑いしているものだから、隣の部の女性が偵察にきたくらい笑っていた。
そういやそーゆーCMが前あったような気もするが、そんな漫画やドラマのような状況が目の前で起こるとは。
取り敢えず発作のごとき爆笑が靜まっても、しばらくくすくす笑いは続いた。思い出すとおかしい。ネクタイをしていないO君を見るとおかしい。その時会議に出席していて、自席に戻ってきた部長が、
「おい、O、なんでネクタイしてないんだ」
と注意するのがおかしい。
そしてそれに、
「ちょっとシュレッダーしちゃいまして……」
とO君が答えるのがおかしい。流石にこの時は再び爆笑が起こった。
そしてよその部で話をきいてわざわざ見物にやってきた次長が
「O君どこ？？あ、ネクタイどうしたの？？」
と探し出してまでわざとらしく聞くのもおかしい。
久々に腹筋が痛くなるまで笑わせていただきました。O君ありがとう。
ちなみにO君は、
「このネクタイもタダじゃないんですよー？！」
と嘆いていた。
給料日まであと4日。
今月は20日が土曜日だから1日だけ振り込みが早いぞ。がんばれO君。