貧血の秋

2000年10月16日
朝の通勤電車内でのコトである。
異変に気づいたのは乗車30分ぐらいしてのことだった。
冷えている。何故か知らんがこのいい加減十分涼しい季節に天井から冷たい空気が降りてきている。
最初はちょっと気になる程度だったが、だんだん洒落にならなくなってきた。
寒い。
鳥肌立ちまくりーの背筋ぞくぞくしまくりーの身震いしまくりーのである。だがそれだけならまだよかった。
頭痛が始まる。額に冷や汗が浮かぶ。吐き気がする。心なしか腹まで痛い。
「……藤生ぴーんち!」
心の中で思わず叫ぶ。実は結構余裕あるのか自分。
一応場慣れしていないわけではない。全く自慢にならないが倒れたことなら人生において数回ある。
こういう時は座るに限るのだが、あいにく此処は通勤電車の中。吊革にはつかまっているが、目の前のシートに座っている人間は皆寝ているし、寿司詰め状態ではしゃがむにしゃがめない。
吊革にぶらさがる右手に全体中の90%を預ける状態で耐えること約15分。何度目の前が暗くなったことか。いっそ暗くなったら楽だろうとの誘惑にも駆られたが、こんなところで倒れても世間の迷惑なので耐える。
そしてやっと到着日本橋──。
よろよろとこぼれ出た藤生はそのままホームの壁際世間様の邪魔にならないところに座り込んだ。視界がぐるぐるしている。気持ちが悪い。
このままでは会社に行けない。すがるようなまなざしでその辺に駅員を捜す。
「すみません、具合悪いんですが……トイレどこですか?」
吐こうと思ったのである。そうしたら少しましになる。
しかし駅員曰く。
「向かいのホームです。大丈夫ですか?休むならすぐそこに事務所ありますから」
……この死にそうな私に階段上り下りして地下鉄線路くぐった向こうのホームまで行けっちゅーんかい!!
行ったとも。ふらつく足で手すりにすがりつつ。
何度このまま倒れるかと思ったが人間結構気力で倒れないものである。
しかし胃の中の朝食とさようならしても気分はすぐれない。
仕方ない。もう一度反対側のホームによろよろと戻り、先ほどの駅員さんにお願いして休ませてもらうことに。
「持病とかはありませんか?」
「貧血だと思うので大丈夫です〜」
「救急車とか呼ばなくても大丈夫ですか?」
「それほどのことではないので……」
「どこか連絡するところは?」
「会社に遅刻って言わないと……」
この時点で藤生は、自分が電話をかけるものだと思っていた。その程度の体力はあったのである。携帯からかけりゃいーやと思っていた。
が、しかし。
駅員さんは
「じゃあそこの電話番号と名前書いて!」
「いやあの、自分でかけられると……」
「でも起きあがるの辛いでしょ?」
……辛いです。はい。でもな〜……あう。
かくて職場に日本橋駅から電話がゆく。

10分後
「藤生(仮名)さん、大丈夫?」
職場の先輩、来る。
あああ!そんな心配して来てもらうほどのコトでは……
「いやもう少ししたら起きあがれると思うので……」
「部長には連絡しといたから、今日はもう、会社の医務室のベッドで寝ててもいいし、起きあがれるようなら帰ってもいいから」
「もう少し休んだら多分回復すると思うんですけど」
「部長なんかさー、男の子に家まで送らそうかって言ってるけど」
ひぃいいい……許してください部長。というかそこまで死にそうじゃないんだってば……うちまで約1時間だよ仕事つまってる総合職そんなんに使ってる場合じゃないよ……
既に職場を二度変え、どの職場でも倒れかけた経験のある私であったが、そこまで親切な対応されたの初めてでしたはい。
結局駅のベッドで2時間寝込み、更に会社のベッドで3時間半寝て家に帰った。何しに通勤したんだ私。

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